FMV-LIFEBOOK T8260 2008年
発表日/発売日:2008年5月ボディカラー:シルバー&ブラック
時代を先取りしすぎた変形機構。
Windows Vistaとペン入力が交差する富士通コンバーチブル型ペンタブレット

本機も含むLifBook TシリーズはまだiPadも存在しなかった時代から、ビジネスの最前線で「画面に直接ペンで書き込む」という体験を切り拓いてきた、歴史的にも非常に重要なコンバーチブル型タブレットPCの系譜でした。 6796(取り直し) 始まりは2000年代始め、Microsoftのビル・ゲイツが「ペンで操作する新しいパソコンの形」としてWindows Tablet PC構想を発表したところからでした。

富士通はこのWindows Tablet PCコンセプトに対応しTシリーズが始まりました。 当時のOS(Windows XP Tablet PC Edition)はまだ指でのタッチ操作には対応しておらず、専用の電磁誘導式ペン(ワコム製デジタイザ)を使い、画面から少し浮かせた状態でカーソルを操る「ホバーリング」を駆使して操作していたのが特徴です。

その後タッチ操作」を前提としたWindows 8が登場し、以前紹介したARROWS Tab Q704やSufaceなどにより本格的なWindowsタブレットの時代へ突入していきました。

ARROWS Tabは実用性がありましたが、このFMV-LIFEBOOK T8260は購入してしばらく使用していましたが現在のタブレット端末とは異なり、重量があり、厚みもあり、OSも重いという三重苦で殆ど使用せずに眠っていました。

久しぶりに持ち出して来ました。さすがに数回程度しか起動していないので2008年モデルとしては非常にきれいな状態。PCスタイルとしては同時期のLifeBookに準じた構造でした。筐体のサイズは幅297mm、奥行き233mm、厚さは約36.4~38mm。そして重量は約2.0kgという、12.1型の画面サイズからは想像もつかないほどの塊感があります。

キーボードも経年劣化による黄ばみもなく白い状態を保っていました。

富士通のキーボードは19mmというデスクトップPC並みのフルサイズ・キーピッチと、約3mmという現代では考えられないほど深いキーストロークを持つ、のキーボードが広がっています。

トラックパットは比較的小さい。

標準OSはWindowsVista、CPUはCore2Duo(T8100)2.1GHz、ワコムタブレット仕様でした。

ビジネス向きにしては両脇にステレオスピーカーを内蔵してDVDなどの映像再生にも十二分に対応できる仕様でした。


しかもメモリーカードスロットはSDカード・メモリースティック兼用タイプ

正面左側。PCカードスロットに排熱孔、USB(2.0)に電源。


背部。USB×2、VGA(D-sub)、LAN、赤外線、モデムとインターフェイス系がモバイルPCにしては豊富。



右側に搭載されたモバイルマルチベイ。これは、使用目的や環境に合わせて、光学ドライブ(DVDスーパーマルチドライブなど)を、増設用バッテリーや、軽量化のためのウェイトセーバーに電源を入れたまま「ガシャッ」と抜き差しして交換できるというギミックです。出張時には大容量バッテリーを挿し、ホテルでDVDを見たい時やソフトをインストールする時はDVDドライブを挿すという、状況に応じたトランスフォームが可能でした。

キーボードの上部には、指紋認証モジュール、Caps Lockやハードディスクのアクセス状況、バッテリー残量などを緑色の光で知らせる、古き良き「状態表示LCD(液晶パネル)」、左側にはファンクションキーが整然と並んでおり、マシンと対話しているような安心感を与えてくれます。


パネルと本体のヒンジ部は特徴的な1点支持の回転ヒンジ。一般的なノートPCが左右2点でディスプレイを支えるのに対し、コンバーチブル型タブレットPCは、画面を180度反転させるために、中央のたった1つの関節で重い液晶ディスプレイ全体を支え、かつ内部にディスプレイ信号ケーブルや無線LANのアンテナ線、デジタイザの配線などをここで担っています。

現代の360度タイプとは異なり一方向(時計回り・反時計回り)にのみ180度回転してパタンと閉じるこのギミックには、メカニカルなものを愛する人間の心を無条件で高揚させてくれます。


当時のスタイルとしては仕事に持ち込めるタブレットPCでした。すなわち「会議などではキーボード付きノートとして使い、移動中や立ち作業ではタブレットとして手軽にペン入力したい」という二つのニーズを一台で解決することを最大の目標に置いていたPCでした。

ベース仕様からのアップデート メモリ増設、SSD化、Windows XP Tablet PC Edition 2005への変更
久しぶりに電源を入れて見ました。

標準OSであるWindowsVistaが起動。起動がとにかく遅い。

本機の標準OSは2007年に登場したばかりの「Windows Vista Business」でしたが、Vistaは非常に重いOSであり、標準の2GBのメモリと5400回転のHDDの組み合わせでは、起動から何をするにもハードディスクが「カリカリカリカリ……」と鳴り続け、動作がもたつきます。

ペンタブレット機能で漢字変換してみましたが使えるものではありません。認識速度が非常に遅く、認識率も高くない。

ということでとりあえず内部を分解してみることにしました。富士通PCは比較的アクセスが容易です。

底部の中央はメモリスロット。2GBのDDR2(PC-6400)が1枚挿入されています。

メモリは上限の4GBまで設置。


次に右下のカバーを外すとHDD(80GB)が見えます。S-ATAフラットケーブルで本体と接続されています。


これもSSD(128GB)に入替。


ついでに重たいVistaを枯れていて圧倒的に動作が軽いWindows XP Tablet PC Edition 2005にダウングレートしてインストールしてみます。


Core2Duo 2.1GHz、メモリ4GB、SSD(128GB)の環境下でのWindowsXPはかなり快適です。

XPの青いタスクバーと、画面の端からスッと引き出せる「Tablet PC 入力パネル」の組み合わせは、この時代のタブレットPCにおける最高のマスターピースと言えます。
本体スペックは
OS:Windows Vista Business SP1(XP Proへのダウングレードサービスあり)
CPU:Intel Core 2 Duo T8100(2.10GHz、3MB L2キャッシュ)
チップセット:Intel GM965 Express(FSB 800MHz)
メモリ:1GB DDR2 SDRAM PC2-5300 / 最大4GB(2スロット)
ストレージ:80GB HDD(Serial ATA/150、固定式) →SSD(128GB)
光学ドライブ:スーパーマルチドライブ(DVD±R DL対応)
ディスプレイ:12.1型ワイドTFT(1,024×768 XGA、1,677万色、FLバックライト)電磁誘導式タッチパネル付き
GPU:Intel GMA X3100(チップセット内蔵)、VRAM最大256MB(メインRAM共有)
サウンド:High Definition Audio コーデック(192KHz/24ビット対応)
有線LAN:1000BASE-T / 100BASE-TX / 10BASE-T(Wakeup on LAN対応)
無線LAN:IEEE802.11a/b/g
モデム:56K(V.92規格)内蔵
インターフェイス:USB 2.0 × 3、ミニD-Sub 15ピン × 1
PCカードスロット:Type I / II × 1(CardBus対応)
メモリカード:SDカード/メモリースティック共用スロット × 1
赤外線:IrDA 1.1準拠
外形寸法:幅295 × 奥行き244 × 高さ36.5 mm
重量:約1.98kg

まとめ
iPadやAndroidタブレットに慣れ親しんだ世代には信じられないかもしれませんが、当時のWindowsタブレットは「指で触って操作するもの」ではありませんでした。そもそも当時のWindows VistaやXPのユーザーインターフェースは、マウスの極小のポインタでクリックすることを前提に作られており、太い人間の指先ではチェックボックスひとつまともに押せなかったのです。

そこでT8260が採用したのが、ワコム(Wacom)の技術による「電磁誘導式アクティブ・デジタイザ」です。これは現代の静電容量式タッチパネルとは根本的に異なる技術です。バッテリーを持たない専用のスタイラスペンを画面に近づけると、画面から発せられる磁界をペンが感知し、ペン先が画面に触れる前から画面上に「ホバー(カーソルが宙に浮いた状態で追従する)」状態を作り出します。

現在のiPadやSurfaceなどの薄型タブレットは、確かに驚異的に軽く、画面は美しく、指先一つで直感的に操作できます。写真は今年購入したiPad M4

しかし、T8260が持っていたような「ガチャリと画面を回す物理的な手応え」「あらゆる環境に直接繋がれる豊富な端子群」「モジュールを入れ替えて拡張する楽しさ」、そして「タイピングという行為そのものを心地よくさせる深いキーボード」は、スマートデバイスの進化と引き換えに捨て去られてしまいました。

中央のヒンジを回し、画面をパタンと倒してデジタイザペンを握る。その瞬間、2008年の熱気を帯びた排気音とともに、まだ「パソコンがパソコンらしい形」を保ちながら、必死にモバイルという未来へ手を伸ばそうとしていた時代の熱量が、手のひらに確かな重みとなって伝わってきます。

本機は、紙のバインダーとボールペンを持ち歩いていた現場の私達に、初めてデジタルの恩恵をもたらした「現場のデジタル・トランスフォーメーション」の先駆者です。底面のネジを外してHDDをSSDに換装し、メモリを最大まで増設すれば、現代でも十分に遊べるデバイスとして蘇ります。


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