80年代 世界最薄35mmの衝撃! PC-286 NOTE executiveが切り開いたノートPC黎明期の革新
発表: 1989年6月 / 発売: 1989年9月 / ボディカラー: アイボリー/ライトグレー / 価格: 458,000円
「世界一薄いパソコン」は、フロッピードライブを持たなかった。

1989年9月。セイコーエプソンは一台のノートパソコンを世に送り出し、業界を驚愕させた。PC-286 NOTE executive。 厚さわずか35mm、重量2.2kgの薄型ボディは当時の世界最薄記録を更新し、しかもNECのPC-9800シリーズ互換機としてNECの「PC-98NOTE(PC-9801N)」よりも2カ月早く市場に登場しました。

さらにこの機種には、当時のパソコンユーザーには衝撃的な設計上の決断が宿っていました。薄型の反射型FTN液晶表自体及び超薄型のビデオ回路モジュールを採用し、フロッピーディスクドライブを一切内蔵しない、という選択でした。FDの代わりにICカードスロットと内蔵モデムを備え、徹底した薄型化と業務活用を両立させたこの一台は、日本のモバイルコンピューティングは革新的な1台でした。
モバイルコンピューティングという新概念本機のコンセプトは、その名に込められたexecutive(プロフェッショナルのためのモデル)という言葉に凝縮されているとおりターゲットはビジネスの第一線で戦うエグゼクティブ層でした。求められるのは「どこでも即座に仕事ができる環境」であり、そのためには徹底した軽量・薄型化と、ネットワーク接続・データ交換の実用性が不可欠でした。

A4ファイルサイズに宿る、EPSONらしいデザイン性



正面左側。PC-286 NOTE executiveコンセプトの最大の設計判断がフロッピーディスクドライブの非搭載でした。当時のパソコンにFDDがないことは、起動すらできないと受け取られかねない常識外れの選択でした。

カバーを外すとRAMディスクの挿入スロットが見えます。
こちらは:ICカードスロット×2基が装着可能です。



LCD部、反射型FTN液晶ディスプレイ(640×400ドット、8階調グレー)。反射型液晶はバックライトを持たず、外光を反射させて表示する方式です。
このバックライトレス構造こそが超薄型化のもうひとつの核心であり、消費電力の低減によるバッテリー駆動時間の延長にも貢献していました。明るい室内・屋外では視認性が高い一方、薄暗い場所での視認性はやや難があるというトレードオフも持つが、「昼間のオフィスや出張先での使用」を想定したターゲット層には十分な実用性を発揮しました。

コントラスト調整ボリュームが中央にある少し変わった構成。

80年代ノートPCの黎明期 「ノートパソコン」という言葉が産声を上げた3台の主役。
東芝 DynaBook J-3100SS 「革命」を起こした先駆者 この三台の中で、最も強烈な市場インパクトを持って最初に登場したのが東芝のDynaBookでした。1989年6月26日発表、7月24日出荷。格は198,000円と20万円を切る低価格設定は驚かされました。(残念ながら所有していませんので省略)
一方PC-9801シリーズで日本市場を長年独占してきたNECは、DynaBookの登場に危機感を覚え、開発を約3ヶ月前倒しして1989年11月24日にPC-9801Nを市場投入しました。「既存のPC-9801用ソフト資産を、そのまま持ち歩ける」と分かりやすいコンセプトでした。

デザイン性と携帯性の違い
所有する2台を比べると際立つのはPC-286 NOTE executiveの薄さです。厚さわずか35mm・重量2.2kgは、PC-9801Nの44mm・2.7kgを大きく下回ります。

PC-9801Nのデザインは角張ったビジネスライクな外観で、デスクトップのPC-9801から乗り換えるユーザーに違和感を与えない安心感があった。

液晶ディスプレイ
両機ともに640×400ドット、8階調グレースケール表示という点では共通している。ただし方式が大きく異なります。 PC-286 NOTE executiveは反射型液晶を採用。つまりバックライトを持たず、外光を利用して表示する。

これが薄型・省電力の秘訣だったが、暗所では視認性が著しく低下するという実用上の弱点でもあった。屋外の明るい場所では問題ないが、夕暮れ時や室内の暗がりでは使いにくかった。

PC-9801NはELバックライト(エレクトロルミネッセンス)を搭載。コントラストや明るさを右側面のボリュームスイッチで調整できる構造で、暗所でも安定した視認性を確保していた。

バッテリー消費は大きくなるが、業務利用における信頼性という面ではNECが優位でした。

CPU・性能
両機のCPUはいずれもNEC μPD70116相当のV30(10MHz)でした。当時の名称こそPC-286(=80286を想起させる)だったが、EPSONのPC-286シリーズの初期ノート機はV30(本機やPC-286NOTE F)を搭載しており、厳密にはPC-286の名称通りではない点が少々紛らわしい。

標準RAMはどちらも640KB。PC-9801Nは最大2.6MB(EMS対応メモリカード経由)、さらにメモリ専用カードスロットで最大8.6MBまで拡張可能だった。EPSONも同様に拡張スロットを備えていた。

ストレージとインターフェイス
ここが両機の性格の差が最も明確に出るポイントでした。
PC-9801Nは3.5インチFDD(1MB/640KB対応)を1基内蔵し、加えて1MBのRAMドライブを搭載。当時のアプリケーションはフロッピー2枚構成が標準だったため、RAMドライブに1枚分のデータをコピーして運用するスタイルが主流だった。インターフェイスはプリンタ、RS-232C、マウス端子を完備しており、即戦力の業務機としての構成でした。

PC-286 NOTE executiveはフロッピードライブを内蔵していない。これはコンセプトモデルとしての性格が強かった証拠で、MS-DOS 2.11をROM(読み取り専用メモリ)から起動し、ワープロ・表計算・データベース・通信機能を含む統合ソフト「エプソンMEM」もROMで提供していた。外付けFDDや専用のRAMドライブカードスロット・EMSボード用スロットは備えていたが、実用的な運用には追加投資が必要で、単体では「持ち歩きのできる高機能端末」という位置づけに近かった。
N88-BASIC(86)もROM搭載しており、ソフトウェア互換性という面ではPC-9801と同等の体裁を整えていた。

本体スペック
CPU:μPD70116(V30相当品)10MHz(8MHz / 5MHz 切替可)
標準:RAM640KB
RAMディスク:標準512KB(最大1.1MB)バッテリバックアップ
ディスプレイ:FTN型LCD 640×400ドット(反射型)8階調(2階調切替可)
フロッピーディスク:非搭載
ハードディスク:非搭載
外部記憶:ICカードスロット×2基(RAMカード 128KB/640KB対応)
モデム:HAYS互換 300bps/1200bps(標準内蔵)
サウンド:ビープ音 バッテリー:NiCd電池内蔵、約3時間使用可(FDD10%使用/パワーセーブ)
電源:ACアダプタまたは内蔵NiCd電池
外 形寸法315(W)× 235(D)× 35(H)mm重量2.2kg
発売価格458,000円


コンセプトから実用機へ 。EPSON PC-286 NOTE executive vs PC-286NOTE F
PC-286 NOTE executiveは厚さ35mm・重量2.2kgというボディは、長年培ってきたEPSONの技術。反射型FTN液晶と超薄型ビデオ回路モジュールの結晶だった。しかしこのマシンは、フロッピードライブを搭載しないという大きな割り切りを持つ「コンセプトモデル」でもあった。MS-DOSや統合ソフトをROMに収め、FDDなしでもある程度の業務をこなせる設計だったが、単体での実用性には限界がありました。
その経験を踏まえて登場したのが後継機PC-286NOTE Fでした。最大の変化は3.5インチFDD(1MB/640KB対応)の内蔵である。これによりexecutiveが「コンセプト機」だったとすれば、NOTE Fは「実用機」への進化を遂げました。

| 項目 | PC-286 NOTE executive | PC-286NOTE F |
|---|---|---|
| 発売 | 1989年9月 | 1990年 |
| CPU | V30 10MHz | V30 10MHz(8/5MHz切替可) |
| FDD | なし | 3.5型×1基内蔵 |
| 液晶 | 反射型FTN 640×400 | 反射型FTN 640×400 |
| サイズ(mm) | 263×210×35 | 315×254×42 |
| 重量 | 2.2kg | 2.5kg |
| 拡張 | 外付けFDDスロット | EMS・RAMドライブスロット、ICカードスロット |
CPUはどちらもV30(10MHz)で基本性能は同等だが、NOTE FはクロックをRAMドライブカードや省電力用に8MHz・5MHzへ切り替えられる点が実用性を高めた。メモリはRAMドライブ640KBを内蔵し、最大2.6MBまで拡張可能。専用ICカードドライブも内蔵しており、拡張性ではexecutiveを大きく上回っていました。

一方で、FDDの追加やICカードスロットの搭載は筐体の大型化を招き、サイズは315×254×42mm・重量2.5kgと、executiveの「世界一薄い」という美点は失われた部分もありました。液晶はどちらも反射型でバックライトなし。この点は暗所での視認性という弱点として両機共通のトレードオフであり続けたことになります。

ショート動画
PC-286 NOTE executiveが変えた未来
PC-286 NOTE executiveが登場してから30年以上が経過しました。、薄型のモバイイルPCの夜明けを象徴するPCであり、当時の分厚い無機質なPCと比較すると薄さや軽量化されたデザインはとても魅力的な1台でした。 本機はある意味で「コンセプトモデル」でした。最も特徴的だったのは、フロッピーディスクドライブ(FDD)を搭載していなかったことです。1989年当時、FDDは必須の装備でしたが、EPSONはあえてこれを省略し、究極の薄型化を優先しました。 データのやり取りは、PCカードスロットやシリアルポート経由で行うという、当時としては革新的。というより挑戦的な設計でした。これは後の「クラウド時代」を先取りしたかのような発想でしたが、1989年の市場には早すぎたのも事実です。 1989年、EPSONが描いたモバイルコンピューティングの夢は、現代のモバイルノートやタブレットへと受け継がれ、「executive」という名に込められた「エグゼクティブのためのモバイルツール」という理想は、今も色褪せることなく、私たちの手の中で輝き続けているのです。

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