DAT

デジタルオーディオ

メカニカルな走行音に酔いしれた。DATの超絶スペックとDCCの悲運、MDの革新性
アナログからデジタルへの大転換


1980年代、CDの登場によってオーディオ業界は大きな転換点を迎えました。デジタル音源の普及とともに、「デジタルで録音したい」というニーズが高まり、カセットテープに代わる新しい録音メディアの開発競争が始まったのです。この時代に登場した三つの規格DAT(Digital Audio Tape)、DCC(Digital Compact Cassette)、MD(MiniDisc)は、それぞれ異なるアプローチでデジタル録音の理想を追求しました。しかし、技術的優位性と市場での成功は必ずしも一致せず、規格争いの明暗は明確に分かれることになります。

DAT(Digital Audio Tape)

DATは、磁気テープにデジタル音声を記録する規格として、1983年に日本オーディオ協会が主導するDAT懇談会によって開発が始まりました。1985年に回転式ヘッドを用いるR-DAT(Rotary Head DAT)と固定式ヘッドを用いるS-DAT(Stationary Head DAT)の2種類の規格が策定され、VTRでの実績があった回転式ヘッドのR-DATが「DAT」として商品化されることになりました。

著作権問題という障壁
しかし、DATの普及を阻んだのは皮肉にもその高音質でした。44.1kHzサンプリングはCDと同じ周波数のため、CDの完全コピーが可能となり、日本レコード協会などから猛反発を受けたのです。1987年に発売された民生用製品は、44.1kHzのデジタル入力録音ができない仕様となり、これが足かせとなって普及が進みませんでした。したがってDTC-1000ESなど初期型はデジタル入力(44.1kHz)ができなかった。

1990年になってようやくSCMS(シリアルコピーマネジメントシステム)が導入され、CDからのデジタル録音が1世代のみ可能となりましたが、時すでに遅し。一般ユーザーへの普及は限定的でした。

民生用DATの1号機

デジタル信号をテープで残す貴重な楽器

DTC-ZA5ES(Sony) 1995年

ソニー最後のDATデッキ

DCC(Digital Compact Cassette)デッキ

1991年、松下電器(現パナソニック)、フィリップス、日本マランツが共同でDCC(Digital Compact Cassette)を発表しました。コンパクトカセットとほぼ同サイズ(厚みは9.6mm)のカセットに、PASC(Precision Adaptive Subband Coding / MPEG-1/2 Audio Layer 1)方式で約4分の1に圧縮した音楽データを記録する規格です。

最大の特徴は、従来のアナログコンパクトカセットとの再生互換性でした。DCCプレーヤーでアナログカセットも再生できるという「上位互換性」は、当初大きなアドバンテージと考えられていました。サンプリング周波数は48kHz、44.1kHz、32kHzに対応し、SCMSによるコピー制御も最初から組み込まれていました。

しかしながら技術的にも課題が多く、テープ形式の制約によりランダムアクセスができず、早送り・巻き戻し時に音を出せないため曲間を探すのが面倒でした。売りだったアナログカセットとの互換性も、古いテープから剥がれ落ちた磁性体がMR素子ヘッドを汚し、DCCカセットの録音・再生エラーを引き起こすという問題を生みました。
DCCテープの量産化も進まず、価格は高止まり。ポータブル機の投入も大幅に遅れ、1997年には開発元の松下電器すらMDに参入するに至り、2000年には全メーカーが生産を終了。自然消滅という形で歴史から姿を消しました。

DCC(Digital Compact Cassette)デッキ

MD(MiniDisc)

1992年11月、ソニーがMD(MiniDisc)を発表しました。直径64mmの光磁気ディスクに、ATRAC(Adaptive TRansform Acoustic Coding)方式で約5分の1に圧縮した音声データを記録する規格です。16bit、44.1kHzで記録され、SCMSによるコピー制御も搭載していました。。

MDの革新性は、テープではなくディスクメディアを採用した点にありました。CDと同様のランダムアクセスが可能で、曲の頭出しが瞬時に行え、曲順の入れ替えや曲名の記録などが自由自在。使い勝手はテープメディアとは比較になりませんでした。

MDS-JA3ESから進化したMDデッキ

VAIO M300シリーズとデザインを共有し、ディスク編集やタイトル入力を可能としたMDデッキ