JR-100

PC

JR-100 (National) 1981年 54,800円

Panasonic(当時National)が発売した低価格入門用パソコン。

あえてZ80を外した独自の系譜。松下製CPU「MN1800」を搭載したJR-100。
1981年に松下電器産業(National)から発売された8ビットパーソナルコンピュータJR-100、54,800円という衝撃的な低価格でありながら、プログラミング学習やホビー用途に必要な機能をバランスよく凝縮した、本格的な入門用マイコンでした。
54,800円という戦略的価格に市場を活性化
1981年当時、マイコン(パソコン)といえばPC-8001(NEC)やMZ-80(SHARP)、ベーシックマスター(HITACHI)などが市場を牽引していましたが、これらの本体価格は20〜15万円前後、専用ディスプレイやデータレコーダなどの周辺機器を揃えれば20万円から30万円を超えるのが当たり前の時代でした。これは大卒の初任給が12万円程度であった当時において、一般家庭の子供が気軽に買ってもらえる金額ではありませんでした。そんな中、JR-100は機能を必要十分に絞り込むことで、発売当時の国産パソコンで最廉価となる54,800円という価格を打ち出しました。高嶺の花であったマイコンが頑張れば手が届く現実的なターゲットへと変わったインパクトは計り知れません。

外観

本体はプラスチック製でありホワイト塗装でキーボード回りがダークグレイなフラットなボディです。質感はチープでMZ-80やベーシックマスターが金属ボディで質感がありますが、コストダウンがうかがえます。本体の大きさは近くにあったPS4の約半分で、厚みも半分ほどです。寸法は幅29.6cm、奥行き15.4cm、高さ4.5cmで、重さは約700gしかありません。

本体上部に鮮やかなブルーのストライプをスッと1本引いています。このJR.100のロゴから青いラインと、白物家電でおなじみのNationalのロゴ、そして「パーソナルコンピュータ」というカタカナ表記の組み合わせが目を引きます。

キーボード
キーボードはキーはゴム製で、ほぼすべてのキーにCTRLキーとの組み合わせで命令を一発入力できるショートカットが割り当てられています。
一方で、癖もはっきりしています。カーソルキーが6、7、8、9に割り当てられその都度CTRLキーを押しながら操作するためプログラム入力時には少し困る場面があります。スペースキーは右下にあり、この配列は慣れないうちは戸惑います。
キーの素材がゴムキーなので、打鍵感に期待するタイプのマシンではありません。コストを抑えた入門機らしい割り切りが、外観にもそのまま出ています。
  
このキーボードも経年劣化により入力レスポンスが悪くなるので定期的に接点賦活剤の噴霧などメンテナンスが必要です。

内部
キーボードの接触不良の改善の為に内部にアプローチしていきます。背部の3カ所のネジを外すとアクセスできます。 
空けるとマザーボード部とキーボード部に分かれます。 
キーボード部のパネル外して接点賦活剤を噴霧します。 

マザーボード部。
厳しいコスト要件を満たすため、極限まで部品点数を削減し、合理的に設計されたシングルボード構造です。
マザーボード上には、CPUやメモリーに相当するチップ、テレビへの映像出力を制御するLSI、キーボードやカセットテープを扱う入出力IC、BASICを格納したROMなどが配置されています。 
CPU部分。CPUには、当時他社で広く普及していたZ80ではなく、モトローラ社のMC6802と互換性を持つ松下電器製のMN1800(実際には富士通製 MB8861H)を採用していました。クロック周波数は895kHzと控えめでした。 また松下通信工業が独自に作成した「JR-BASIC」インタプリタ(8KBのROMに搭載)との相性が良く、当時の同価格帯マイコンとしては十分な処理能力を発揮しました。 特徴は16KB(最大32KBまで増設可能)のメインメモリ(RAM)を標準搭載していた点です。198,000円したMZ-80が32KBを考えると高いコストパ機でした。隣にはMB8364は、JR-BASICを格納する8KBのマスクROMです。
JR-100の画面表示は、高解像度のグラフィック描画機能を持たず、横32文字×縦24行のテキスト(文字)表示のみ、しかもモノクロという非常に割り切った仕様でした。しかし、この制約が逆にユーザーの創造力を大いに刺激しました。文字の形(フォント)をユーザーが自由に変更・定義できるPCG(プログラマブル・キャラクタ・ジェネレータ)機能が備わっていたためです。後で紹介していますがインベーダーや宇宙船などのゲームキャラクターを擬似的なスプライトとして画面上に滑らかに動かす技術を編み出しました。

インターフェイス
背面および側面の端子類は非常にシンプルです。
当時は専用ディスプレイではなく家庭用テレビに接続するのが前提だったため、RF出力端子やビデオ出力端子、そしてプログラムを保存・読み込みするためのカセットインターフェース(CMT端子)が並びます。さらに拡張バスも備えています。 
個性的なハードウェアとJR-BASIC(PCG機能)

JR-BASICは、電源投入後に利用できるBASICインタプリタです。ユーザーは機械語を直接書かなくても、命令を入力してプログラムを作成し、実行できます。このJR-BASICは大きく分けて3つの特徴がありました。 
・完全な整数演算専用仕様: 8KBという極小のROM容量に言語システムを収めるため、実数(浮動小数点)演算を大胆に切り捨て、扱える数値を-32768〜32767の16ビット整数のみに限定しました。この計算処理の軽量化により、895kHzという低い動作クロックでありながら、BASIC言語としては当時の同クラス機を凌駕するほどの実行速度を叩き出しました。この後紹介するインベーダーゲームは十分な実行速度を持っていました。 
・PCG制御への最適化: ハードウェアの強みであるPCGを最大限に引き出すため、BASIC言語の標準コマンドとしてキャラクターパターンを直接定義・変更できる専用命令が組み込まれています。これにより、難解な機械語を使わずとも、BASICだけでスプライトのようにキャラクターを動かす実用的なアクションゲームを開発可能でした。 
・ワンタッチ入力システム: ストローク感に乏しくタイピングに適さない消しゴムキーボードの弱点を補うため、各キーの周辺に「PRINT」や「GOTO」などのコマンドが印字されています。CTRLキーを押下するだけで命令語を1ストロークで展開できる仕組みがソフトウェア側で統合されており、構文エラーを防ぎつつ入力の手間を劇的に軽減しています。 

映像信号(NTSC信号規格外レベル)の課題
JR-100の映像信号がNTSCの厳密な規格から外れていました(いわゆる「規格外レベル」である)、現代においてJR-100をLCDモニターで実働させようとすると画面が激しく揺れたり同期が取れずNO SIGNALになるという必ず立ちはだかる技術的な課題です。 

これもおそらくコストダウンの影響だと考えられますが当時のPCはCRTC(CRTコントローラ)専用LSIや、精度の高いクロック発振器を搭載し、NTSC規格(水平走査周波数15.75kHz、垂直走査周波数60Hzのインターレース等)に比較的近い正確な映像同期信号(H-SYNC / V-SYNC)を生成していましたがJR-100はそうした高価な専用部品を削り、汎用ロジックICの組み合わせや、メインのシステムクロック(895kHz)を単純に分周して無理やり映像信号をひねり出すという、非常にアクロバティックで簡易的な設計がなされていました。その結果、生成される水平・垂直の同期信号のパルス幅やタイミングが標準的なNTSC規格から微妙にズレた、「なんちゃってNTSC信号(いわゆる240p近辺の変則信号)」となって出力されていたのです。

したがってブラウン管モニターを使用するのが手っ取り早し方法です。トリニトロン系のブラウン管では表示されますが液晶系のモニターは全てダメでした。なぜかQualia(SONY)だけは表示されました。 


本体スペック

CPU:8ビットのMC6800系。カタログ表記はMN1800(MC6802相当)です。
ROM:8KB RAM:16KB(標準搭載) 表示 32文字×24行。モノクロで、内蔵の文字や記号は反転表示も可能 グラフィック:キャラクターを分割したセミグラフィックとキャラクタグラフィック
PCG:32文字分のユーザー定義機能 サウンド:圧電素子によるブザー音のみ。特定アドレスへの書き込みで音程を変えられます。 記録媒体:カセットテープ(インタフェースは600ボー)
キーボード:ゴム接点一体型のゴムキー。CTRLキーとの組み合わせでBASICの命令をワンタッチ入力できます。
寸法・重量:幅29.6cm × 奥行き15.4cm × 高さ4.5cm、約700g 電源:電源部は内蔵せず、付属のACアダプタを使用。電源スイッチはありません。
背面端子:ACアダプタ端子、テープレコーダのモニタ端子とマイク端子、外部バス、ビデオ端子、RFコンバータ用DC出力端子 周辺機器:
RFコンバータ(別売7,500円。家庭用テレビへの接続に使用)

起動

久しぶり(数十年ぶり)に起動を試みました。本体にオリンパス製14型トリニトロンカラーモニター(SONY OEM製)に接続。(設置場所が納戸なので暗いです。)  
本機は電源ボタンがありませんので、コンセントを入れると自動的?にJR-BASICが立ち上がります。 
JR-100のプログラムは持ちあわせがそれほどありませんが、純正デモンストレーションプログラムとハドソン製スペースインベーダー。

コマンドでLOADを打ち込もうとしましたが反応が悪いので接点賦活剤を噴霧。どうも分解して基板に噴霧するよりキーボード横からの噴霧のほうが効果があり、キーの反応がいいようです。 

デモンストレーションプログラム(National製) マイコンに初めて触れるユーザーに対し、ハードウェアのポテンシャルとBASIC言語の可能性を提示するための公式ソフトウェアで4本のプログラムが入っていました。 

1. Demonstration: JR-100の基本性能を視覚的・聴覚的にアピールする自動実行型のプレゼンテーションプログラムです。本機の最大の特徴であるPCG(プログラマブル・キャラクタ・ジェネレータ)機能によるオリジナルキャラクターの描画やBEEP音を組み合わせ、店頭での販促デモとしても機能する設計となっていました。  

2. Calendar: 指定した年月のカレンダーを画面上に描画するプログラムです。当時のパソコンはゲーム機ではなく、あくまで計算や情報管理ができるインテリジェントな実用ツールとしての側面を保護者や消費者にアピールする必要があったため、このような実用サンプルが必ずと言っていいほど収録されていました。

3. Mole Game: PCGを用いて描画されたモグラを叩く、シンプルなもぐらたたきゲームです。キーボードからのリアルタイムな入力判定処理や、ユーザー定義文字を素早く画面上で書き換える動的表現の優れたサンプルコードとして機能しました。  

4. UFO: 黎明期のマイコンにおいて王道のテーマであった、UFOを題材にしたゲームプログラムです。限られたテキスト画面の中でキャラクターの座標を計算し、動かすためのロジックが詰まっており、初心者が今後自分でゲームをプログラミングしていくための教科書的な手本となりました。(すごくシンプルです)

インベーダー(HUDSON製)
ナショナル JR-100向けに発売されたハドソン(HUDSON SOFT)製のインベーダーゲーム 
動きもなめからかでよく作られたプログラムです。しかも全てソースはBASICで書かれています。 

より高速な動作を求めて機械語(マシン語)へ移行していく過渡期にありましたが、本作はJR-100内蔵のJR-BASICで記述されていました。JR-100には標準的なグラフィック描画命令がないため、PCG(プログラマブル・キャラクタ・ジェネレータ)機能を用いて自機やインベーダーのドット絵を文字データとして定義し、テキスト画面の座標を書き換えることでゲームを構成していました。 

さすがにゴム製のキーでの移動はかなり厳しいでした。 

どちらも当時はカセットテープという物理メディアの特性上、これらのプログラムを一つ遊ぶだけでも、目的の頭出しを行い、データレコーダの再生ボタンを押して600ボーの「ピー・ガガガ…」という音声信号を数分間読み込ませる必要がありました。デモンストレーションプログラムは全てLOADするのに8分くらいかかりました。 

国産PCの大衆化を先導したJR-100

National JR-100は、コンピューターを安く始められることを最優先に設計した入門用マイコンでした。モノクロ表示と単音という弱点は、割り切りの結果でしたがその代わりにRAM 16KBとPCGという、学びと工夫で上位機種にも劣らないプログラムを動かすこともできたPCでした。 
当時はユーザーがプログラムを書くことが主流の中、派手さはなくても、何を残し、何を削るかというNationalの製品づくりのセンセプトが詰まった一台です。久しぶりに本機を動かし古いPCの楽しみ方の一つとして、スペックの高さではなく設計の意図を味わうなら、JR-100は格好の題材でした。
 

【カタログ】

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