ThinkPad570 IBM

Note_PC

90年代モバイルの理想形を追い求めた末に生まれた一台

ThinkPad570 (IBM) 1999年
切り離せばスリム、繋げばデスクトップ並み。ThinkPad 570が示したウルトラベースの魔法
モバイルの理想形を追い求めた末に生まれた一台 

 1990年代後半、ノートパソコン市場は全部入りの大型モデルと、携帯性を重視したThinPad235やVAIO505のようなサブノートの二極化が進んでいました。しかし、ユーザーが本当に求めていたのは、外では軽く、デスクではフル装備で使えるPCでした。1999年、IBMがその答えとして市場に投入したのが本機でした。 
 久しぶりにThinkPadを持ち出して来ました。ThinkPadを使わなくなってもう何年経つのだろうか。以前は仕事はThinkPad、プライベートはVAIOと使い分けていました。これには訳があり90年代後半から2000年代前半は仕事上使用するデバイスがレガシーデバイス(プリンターや制御機器はシリアル端子)が多くThinkPadは優位でした。またIBMらしい堅牢な筐体とメカニカルなデザインは他社とは違ったものを持っていました。
 これまでの560シリーズには課題がありました。薄さを追求するあまり光学ドライブをすべて省いており、CD-ROMを使いたい場合は別途外付けドライブを持ち歩く必要がありました。出先では身軽に、デスクに戻ればオールインワンとして使いたいというユーザーの声に応えるため、IBMが考案したのが「ウルトラベース」という発想でした。ドライブ類は脱着可能なベースユニット側に集約し、本体は徹底的に薄く・軽く作る。この「1台2役」の設計思想こそがThinkPad 570の根幹であり、後のXシリーズが受け継ぐアーキテクチャの原点ともなりました。(ウルトラベース装着状態) 
デザイン ソフトブラック・メタリックとブラックのツートンカラーの筐体

ボディカラーはソフトブラック・メタリックとブラックのツートンカラーシンプルな外観です。従来は黒一色だったものからの変更でした。IBMロゴとThinkPadロゴが控えめに配されています。質感も向上していて、90年代IBMノートPCに発生するラバー塗装によるベタつき(加水分解)もありません。(560シリーズは保管環境により発生しやすい)
液晶パネルの開閉はフロントエッジをテーパー加工することで、片手で自然に引き上げられる設計になっています。ディスプレイは13.3インチ(XGA:1024×768)と十分なサイズを確保していました。 

インターフェイス
キーボードは、18.5mmという標準的なキーピッチを確保しており、これだけスリムなボディでありながら妥協のない打鍵面積を確保したことは、長文入力の多いユーザーへの真摯な回答です。 
キートップには適度なくぼみ(スフェリカル形状)が設けられており、指が自然にポジションを保てる。スピルレジスタント(防滴)設計も施され、コーヒーを少々こぼしても即座に故障には至らない実用的な耐性も持っていました。 
ThinkPadの象徴である「TrackPoint」ポインティングデバイスを搭載。赤いポインターをキーボード中央のG、H、Bキーの間に配置し、ホームポジションから手を離さずにカーソル操作ができます。 
厚みは前モデルのThinkPad560と比較すると2/3程度スリムになっています。 
CPUは:Intel Pentium II(300MHz/333MHz)または Celeron 366MHzであり、本機はCleron版。仕事でOffice等のアプリケーションを使用する範囲では十分なスペックでした。 
豊富な外部接続端子 正面左側。この角度でみるとA4サイズPCとしては当時ではかなりスリム。 
本体左側、電源スッチ、USBのみ。
ヒンジ部。立体的でメカニカルな構造はThinkPadらしく好きな部分です。  
本体側面と背面には、当時としては充実した接続端子が配されています。USB 1.0ポート、VGAポート、赤外線ポート(IrDA)、イーサネット(RJ-45)、モデム(RJ-11)。赤外線ポートは、携帯電話やPDAとのワイヤレスデータ交換に使用でき、当時としては先進的な機能でした。 
PCカードスロットは、デュアルType II PCカードスロット(シャッター付き)を装備。CardBus対応で、無線LANカード(IBM独自のソリューションを含む)や拡張ストレージなど、様々な周辺機器に対応していました。1999年当時、無線LANはまだ黎明期でしたが、ThinkPad 570は将来の拡張性を見据えた設計となっていました。 
二つの顔(ウルトラベース)
ThinkPad 570を語る上で欠かせないのがウルトラベースの存在でした。本体単体では光学ドライブもFDDも持たない「素」の状態ですが、ウルトラベースに装着することで一気にオールインワンへと変身します。 
本体右側にはFDDが装着されています。これは添付のケーブルで本体側のFDDコネクタにも直結して使用もできます。 9197 背部です。オーディオジャック、USBポート、MIDI/JOYSTICKポートがありこれだけカバー付き。そして電源コネクタがあります。  

左側はCD-ROMドライブがあります。 
装着可能なウルトラスリムベイ・オプション ・CD-ROMドライブ(最大24倍速) ・DVD-ROMドライブ ・フロッピーディスクドライブ(1.44MB) ・セカンドHDD(2.5インチ) ・セカンドバッテリー(トリプルバッテリー構成も可能) ・Zipドライブ(250MB)がありました。
手前側には青色のアンドックボタンと左右に設置されているステレオスピーカー(570本体はモノラルスピーカーのみ内蔵)があります。 
ウルトラベースによる拡張性 UltraBaseドッキングステーションに接続すると、さらに多くのポートが利用可能になります。USBポート、パラレルポート、シリアルポート、PS/2ポートなどが使えるようになり、デスクトップPCに匹敵する拡張性を獲得しました。 
携帯時は薄型軽量
携帯時は薄型軽量 外出時は本体のみを持ち運び、1.8kgという軽量性と3.3cmという薄さを活かして、バッグに収納。当時のA4型の競合製品が2kg超、厚さ4cm以上が当たり前だった中で、この薄型軽量ボディは圧倒的なアドバンテージでした。 

仕事ではフル機能のデスクトップ オフィスや自宅では、ウルトラベースドッキングステーション(重量わずか500g追加)に本体をドッキング。光学ドライブ(CD-ROM/DVD)、追加バッテリー、フロッピーディスクドライブ、さらなる拡張ポートが利用可能になります 
このウルトラベースはホットスワップ(電源を入れたままの着脱)対応により、使用中でも周辺機器の交換が可能でした。この柔軟性は、プレゼンテーション前にCD-ROMドライブをセカンドバッテリーに交換する、といった臨機応変な対応を可能にしました。 
本体スペックは
CPU:Intel Pentium II(300MHz/333MHz)または Celeron(PII基盤)
LCD:12.1インチ SVGA TFT(800×600)または 13.3インチ XGA TFT(1024×768)
RAM:64MB(ハンダ実装、固定)+増設スロット、最大192MB
HDD:4〜12GB HDD(モデルにより異なる)
GPU:NeoMagic MagicMedia 256AV(NM2200)、VRAM 2.5MB
バッテリー:Li-Ion、Ultrabay Slimでセカンドバッテリー増設
インターフェイス:USB 1.0、VGA、IrDA赤外線、内蔵モデム、内蔵Ethernet(10BASE-T)
拡張スロット:Type II PCカード×2(またはType III×1)、
Ultrabay Slim ドッキングUltraBase(光学ドライブ・追加USB・セカンドバッテリー対応)
OS:Windows 98 / Windows NT 4.0
本体寸法:約306 × 225 × 33mm / 約1.8kg

ThinkPad560Eと570 2年の差が生んだ「次元の違い」 

ThinkPad560Eと570 2年の差が生んだ「次元の違い」 
本機の登場する以前、ThinkPad 560シリーズは1996年の初代560以来、薄くて軽いA4ノートの代名詞として君臨してきました。
1990年代中盤、ノートPCはまだ「持ち運べるデスクトップ」という性格が強く、重量は2.5kg〜3kgが当たり前という時代だった。そんな中で登場したのが、IBMのThinkPad 560でした。久しぶりに電源入れるとWindows98が起動しました。
本機は、それまでの「全部入りノート」という常識を見直し、本当に必要な機能だけを残す”という思想で設計されていました。その結果、重量約1.9kg、厚さ約31mmという、当時としては驚異的な薄型軽量化を実現していました。1997年に登場した進化形のThinkPad560EはMMX Pentiumを搭載し、携帯性とパフォーマンスのバランスのモデルでした。 
それから約2年後の1999年に後継機のThinkPad 570が登場しました。名前は1桁増えただけだが、その中身の変化は単なる世代交代を大きく超えていました。 
スペックの比較
項目ThinkPad 560E(2640-40J)ThinkPad 570(2644-3A7)
発売年1997年1999年
CPUMMX Pentium 166MHzMobile Pentium II 366MHz Celeron 366Mhz
チップセット不明(430TX相当)Intel 440BX
RAM(標準/最大)16MB EDO / 最大80MB64MB SDRAM / 最大320MB
グラフィックスTrident Cyber9382(VRAM 1MB)NeoMagic MagicMedia 256AV(VRAM 2.5MB)
液晶サイズ12.1インチ SVGA(800×600ドット)(12.1インチ SVGA)13.3インチ XGA 1,024×768ドット
HDD2.1GB4GB / 6.4GB
光学ドライブなし(外付けオプション)なし(ウルトラベース経由)
FDD専用コネクター外付け(付属品)なし(外付け or ウルトラベース)
USBポートなしUSB 1.1 × 1
PCカードスロットTypeII × 2(CardBus非対応)TypeII × 2(CardBus対応)
内蔵モデムなし(PCカード別売)56Kbps(V.90)内蔵
ドッキングシステムポートリプリケーターのみウルトラベース / ポートリプリケーター / 拡張ポートリプリケーター
本体寸法297×222×31mm300×240×27.95mm(3mm薄い)
重量1.9kg1.83kg
バッテリー駆動約2〜3時間約3時間(同等)
OSWindows 95 / 98Windows 95 / 98 / NT 4.0
実売価格(当時)約180,000〜250,000円348,000〜438,000円
最も大きな差が出るのがCPUでした。560EのMMX Pentium 166MHzは1997年当時の水準としては標準的だったが、1999年にはすでに時代遅れの感があり対する570のMobile Pentium II 366MHzは、単純な動作クロックで約2.2倍、さらにL2キャッシュが256KBに拡大されており、実効性能の差はクロック比以上に大きかった。 

また560Eの液晶は12.1インチ SVGA(800×600ドット)の1択でした。TFT液晶のモデルは発色と視野角に優れていたが、解像度の制約からExcelで列が多い表を扱う際やウェブの横幅の広いサイトでの閲覧にはやや窮屈さを感じることがあった。グラフィックスチップのTrident Cyber9382はVRAM 1MBで、動画再生支援機能を持たないため、動画の滑らかさは限定的でした。 
570では12.1インチ SVGAに加え、13.3インチ XGA(1,024×768ドット)モデルが選択できるようになった。XGAモデルはビジネスユーザーに圧倒的に支持され、ExcelやWordの作業領域が格段に広がりました。 
グラフィックスのNeoMagic MagicMedia 256AVはVRAM 2.5MBを搭載し、DVDウルトラベースと組み合わせたDVD再生にも対応。動画表示品質は560Eと比較にならない水準でした。 
「薄型ThinkPad」の代名詞だった560Eのサイズは297×222×31mm、重量1.9kg。これは当時のA4ノートとして屈指の薄さでした。560Eの薄さを実現するためにIBMが払った代償は拡張性の低さであり、搭載できないドライブ類を外付けで補う設計はやむを得ない選択だった。 
570はそれをさらに縮め、300×240×27.95mm・1.83kgを実現した。フットプリントは幅・奥行きともわずかに大きくなった(13.3インチ液晶を搭載するため)が、厚さで約3mm薄く、重量で70g軽くなっている。「より薄く、より広い画面で」という正反対とも思えるベクトルを同時に実現できたのは、基板設計の抜本的な見直しによるものでした。

ThinkPad 570が切り開いた、「薄軽」の未来

本機は20世紀末(1999年)という時代に、IBM ThinkPad 570は、モバイルコンピューティングの概念を根底から問い直した一台でした。光学ドライブを切り離すモジュラー思想、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)やガラス繊維強化プラスチック(GFRP)による堅牢性、1.8kgという当時最軽量水準のボディ。これらは後継のThinkPad Xシリーズへと直結し、さらには現代のウルトラブックの設計思想にまで影響を与え続けています。
「本当に必要なものだけを持ち歩く」という合理的な哲学がこのマシンには宿っており、それは2026年を生きる私たちの仕事観とも深く共鳴します。黒いボディに込められたIBMの誠実なものづくりの精神は、四半世紀を経た今も色あせることなく輝いています。モバイルコンピューティングの理想形を提示した革新的なノートパソコンでした。わずか1.8kg、3.3cmという薄型軽量ボディに、13.3インチ大画面と充実した機能を凝縮。UltraBaseによるモジュラー設計は、「携帯性」と「拡張性」という相反する要求を見事に両立させていました。

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