CDジャケットサイズの革命
ーQbricが描いたデザインで魅せる、新しいデジタル機器のかたちー

1995年、ソニーからオーディオ機器の概念を変えるコンセプトで革新的なマイクロコンポが登場しました。それが「Qbric(キューブリック)」です。CDジャケットと同じサイズの正方形フロントパネルを持つキューブ型デザインは、それまでの黒一色だったオーディオ機器の常識を覆し、柔らかく温かみのあるカラーリングでインテリアに溶け込む新しい提案をしました。グッドデザイン賞を受賞したこのシリーズは、90年代のライフスタイルを象徴する存在となりました。

「究極の立方体」を目指したミニマリズム
Qbricの最大の特徴は、その名の通りCube(立方体)をベースにした徹底的なミニマリズムです。
・18cmの正方形フロントパネル
CDプレーヤー、MDデッキ、アンプの各ユニットの前面が、すべて18cm×18cmの正方形で統一されています。これにより、積み重ねても横に並べても、完璧なグリッド(格子)の美しさが保たれる設計になっています。
・フラットパネルの衝撃
当時のコンポは、液晶やボタンが所狭しと並んでいるのが普通でした。しかしQbricは、操作ボタンを最小限に絞り込み、前面をフラットなアルミパネルで覆いました。
Qbricには音楽生活を変えるための新しいキーワード
for Disk Age スタイル
本体フロントパネルがCDジャケットサイズのフォルム。贅沢なアルミパネルの素材感が際立つでデザイン。3種類のシステム選択とセッティングの自由さが音楽のスタイルを大きく変えます
For Disk Age サウンド
小型スタジオモニターの研究・開発を通して得られた音響技術を基に、デジタルディスク時代にふさわしい音質を追求。心にしみるピュアサウンドの到来です。
For Diks Age メディア
デジタル録再・編集に優れた「MD(ミニディスク)」デッキをシステムの中核に据えたキューブリック。光デジタル出力端子の装備で、デジタルメディア時代をリードします。
異素材のコントラスト:アルミとダイキャスト
デザインの質感を支えていたのは、こだわりの「素材」です。
・ヘアライン仕上げのアルミニウム
フロントパネルには、重厚感のあるアルミニウムを採用。光の当たり方で表情を変えるヘアライン加工が、精密機器としての信頼感と、インテリアとしての品格を両立させていました。


・再度パネルの質感
各ユニットの両サイドには、あえて金属の質感を強調したパーツが配置され、単なる「箱」ではない、メカニカルな力強さを演出していました。
初期モデル(1995年)
CMT-M1は、シリーズのフラッグシップとして登場しました。CDチューナープリアンプ(HCD-T1)、MDデッキ(MDS-MX1)、そしてパワードスピーカー(SA-N1)の3ユニット構成で、MD録音という当時最先端のデジタル録音環境を提供しました。
CMT-T1は、CDとカセットデッキの2BOX構成で、より手頃な価格帯を狙った実用モデルです。カセットテープという既存メディアとCDの組み合わせは、多くのユーザーに受け入れられました。
CMT-D1は、MDレシーバーと3連CDチェンジャーという、音楽を連続して楽しむことに特化した構成でした。カセットデッキはオプション対応とし、CDとMDという2つのデジタルメディアに焦点を当てました。


コンセプトは「部屋に置きたくなる」オーディオ
Qbricシリーズ最大のコンセプトは、「インテリアとしてのオーディオ」でした。1990年代半ば、オーディオ機器は依然として「黒い箱」が主流でした。しかし、Qbricは敢えてその常識を打ち破りました。
「部屋に置きたくなるオーディオ」
このシンプルなコンセプトが、Qbricの全てを貫いていました。音楽を聴かない時でさえ、部屋の一部として美しくあること。これが、Qbricが目指した理想形だったのです。
午後三時の光が、カーテンごしに部屋へ斜めに差し込んでいる。
本棚の中段に、それはある。文庫本とレコードの間に、ひっそりと、しかし確かな存在感で。CDジャケットとほぼ同じ大きさのフロントパネル。アルミの縁に囲まれたウォームグレーの筐体は、主張するでもなく、かといって埋もれるでもなく、棚の中でちょうどいい場所を見つけたように佇んでいる。


MDデッキのスロットに指先でディスクを押し込むと、かすかなモーター音とともにトレイが引き込まれる。小さな液晶にトラック番号が浮かぶ。再生ボタンを押す。音が、部屋に溶ける。
スピーカーは左右に置かれていて、音量は控えめだ。窓の外を走る車の音と、コーヒーメーカーの低いうなりと、音楽が、ちょうどいい層をなして重なっている。この部屋に「流れている」という感じ。BGMという言葉よりも、もっと柔らかい何か。
ふと視線を棚に戻すと、Qbricの液晶がトラック番号を静かに刻んでいる。電源が入っているのかいないのか、遠目にはわからないくらいの控えめな発光。機械なのに、まるで呼吸しているみたいだと思う。
1995年生まれのこの小さなコンポは、インターネットも、サブスクも、スマートスピーカーも知らない。ただ、CDとMDと、そしてこの部屋のことだけを知っている。それで十分だと言わんばかりに、今日も棚の上で音を鳴らしている。

